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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4954号 判決

原告 高橋操

被告 大日産業株式会社

主文

被告は、別紙目録〈省略〉記載の各不動産について東京法務局品川出張所昭和二三年九月二四日受付第八、二七三号をもつてされた被告のための所有権移転請求権保全の仮登記の各抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

(原告の申立)

主文と同じ。

(原告の請求原因)

一、別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、もと訴外美国工業株式会社の所有に属していたが、同訴外会社は、昭和二三年九月二四日被告に対して本件建物の売買の予約をなし、同日東京法務局品川出張所受付第八、二七三号をもつて被告のための所有権移転請求権保全の仮登記を了した。

二、訴外美国工業は、昭和二三年中本件建物を訴外村木福次に譲渡し、昭和二四年四月一九日訴外村木のための所有権移転登記を終つた。

三、昭和二四年四月三〇日税金滞納のため本件建物は公売に付されたが、訴外村木はその落札者となつて再び本件建物の所有権を取得した。

四、訴外村木は、本件建物を昭和二八年一一月六日訴外関藤吉に売り渡して昭和三〇年七月一八日同訴外人のための所有権移転登記を経た。

五、原告は、昭和三二年五月二三日本件建物を訴外関から買い受けてその所有権を取得し、同月二四日原告のための所有権移転登記を得た。

六、ところで、被告は、昭和二三年九月四日本件建物の売買予約締結後現在にいたるまで予約完結権の行使をしないから、原告は本訴において前者の時効期間と併せて一〇年の消滅時効を援用する。

七、仮りに、直接原告において消滅時効の援用ができないとしても、原告は、債権者代位権に基いて訴外美国工業に代位して一〇年の消滅時効を援用する。

八、以上の次第により、被告の本件建物に関する予約完結権は時効によつて消滅し、その仮登記は効力を失つたものであるから原告は本件建物の所有権に基いて右仮登記の抹消登記手続を求める。

(証拠)〈省略〉

(被告の出頭関係)

被告は、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

理由

原告主張の請求原因第一ないし五項の事実は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一・二号証によつて認められ、他に右認定に反する証拠はない。

従つて、昭和二三年九月四日本件建物に関する予約締結後本訴提起まで既に一〇年を経過していることは明らかである。

しかして、時効中断について被告において何等の抗弁が主張されていないから、昭和二三年九月五日から一〇年の消滅時効が完成していることとなる。

ところで、原告は、右売買契約おける予約完結権行使の相手方ではないから、時効によつて直接義務を免れる者には該当しないであろうけれども、時効利益の援用権者は、「時効によつて直接に権利を取得し、又は義務を免れる者及びその承継人」の他「この権利又は義務に基いて権利を取得し又は義務を免れる者」をも包含するものと解するのが相当であり、原告は右予約完結権行使の当然の効果である本件建物の所有権の移転について利害関係を有するものであるから、少くとも「この義務に基いて義務を免れる者」の中には含まれるものであるといわなければならない。

従つて、原告は、時効利益の援用権者であるというべきところ本訴において消滅時効を援用したものであるから、被告の予約完結権は、昭和二三年九月五日から満一〇年を経過した昭和三三年九月四日限り時効によつて消滅したものといわなければならない(予約完結権は一〇年の消滅時効によつて消滅するものと解するのが相当である。)。

以上の次第によつて、被告の予約完結権は時効によつて消滅したものであるから、被告のための前記仮登記は効力を失つたものというべきであるから、被告は、原告に対して右仮登記を抹消すべき義務を負担しているものといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求は正当として認容すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉永順作)

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